2016年10月20日木曜日

健軍情報95-阿蘇を行く



阿蘇大橋の崩落現場
べつに震災から半年だから、という訳ではないのだが、
ようやく休み取れたので、阿蘇をまわる長躯のドライブに出た。
国道57号線から二重峠を越えて赤水に入るミルクロード。
阿蘇大橋があれば、なんなく阿蘇に入れるのだが、
迂回ルートは工事車両が多い上に
対面通行の峠越えのため、渋滞気味で時間がかかる。
このルートで仕事に通う方々には、なかなか酷な通勤路だろう。
ミルクロードから五岳を臨む
赤水から南下し、閉鎖が続いている
東海大学農学部キャンパスのある南阿蘇村黒川地区に入る。
学生たちは、震災後に熊本市内に移り、
仮のキャンパスで学んでいて、
彼女・彼らが暮らしたアパートや下宿群は、
急ぎ再建される必然性のないまま、哀しい姿をさらしている。
黒川地区
さらに、以前は行くことが出来なかった阿蘇大橋のたもとへ。
半年前の4月16日の明け方、避難していた駐車場にひっぱりだして
スイッチを入れたテレビに映し出されたこの地の映像に衝撃を受け、
被災地の生活者としての活動を覚悟したものだった。

 対岸では、大型の工事車両が土砂崩れの後の復旧工事にあたっている。
二次災害を警戒しながらの恐る恐るの作業にみえる。
此岸からだとそれらが小さなミニカーのようだ。
あたり前のことだが、自然の力の大きさと、
人間の力の頼りなさを、思い知らさせるような災害現場。
この地で命を落とした青年を悼む花束が、風に揺れていた。
対岸の工事車両が豆粒のように見える
 道をおりかえして北上。
噴火のために入山規制が続く阿蘇五岳を右手に見ながら、
57号線に沿って阿蘇神社にむかう。
途中、道の駅阿蘇で休憩を取った。
九州・沖縄道の駅連絡会で最優秀賞を獲得したというだけあって、
なかなか魅力的な道の駅だ。
地元のパン屋や饅頭屋など、地域の商店の品が棚を埋めており、
地元高校生がプロデュースしたお弁当などもあって充実した品揃え。
お腹が減っていた時間帯だったこともあって目移りする。
おかげで念頭にあった阿蘇の赤牛丼は後日の楽しみとなり、
お座敷にしつらえたイートインで、のんびりお昼休憩となった。
パン・饅頭・弁当類が豊富
午後、さらに車を東に走らせると、乙姫地区をすぎたあたりから、
なんとなくあたりの景色がねずみ色がかっていく。
いや、ねずみ色でもグレーでもなく、
これは文字通りの灰色なのだ。
窓を開けて走ると、そこはかとなく火山の臭いがする。
阿蘇の噴火から1週間。
この間、雨も降ったのだが、火山の降灰は水を含むと、
そのまま固まってしまい、高圧洗浄機でないとなかなか綺麗にならない。
ガラス質を含んでいるとかで、下手にタワシでこすったり
フロントグラスにワイパーをかけたりすると、
表面に傷がついてしまうのだ。
この日も植え込みを洗浄する人々の姿があった
これまで、灰が降ることは珍しくなかったのだけれど、
この辺りで小石が降ったのとは初めてとのことだという。
おかげで今日は、草千里など山の中の方には入っていけないが、
カルデラ内では普通に数千人の人たちの生活が営まれている。
秋は、阿蘇がほんとうに気持ちのよい季節。
観光の被害が大きくなければよいのだが、
課題は、観光客の4割を占めていた韓国からのツアー客。
地震がほとんどない韓国人にとって、地震の不安は相当らしく、
地震被害を目にしたくないと、敬遠されているのだという。
地震から半年。なんとか開店にこぎつけても
お客さんが戻ってこなければ、そんなに長くは持ちこたえられない。
日本三大楼門に数えられた楼門も倒壊
目的地のひとつ、阿蘇神社。
阿蘇神社は、全国に450社ある阿蘇神社の総本社で、
西日本でも有数の歴史を誇るが、
楼門や社殿をはじめ、今回の地震で大きな被害に遭った。
 
ちなみに、健軍教会の名前の由来でもある、教会近隣の健軍神社は、
阿蘇神社の別宮であって、かつては健軍宮(たけみやぐう)と呼ばれていた。
肥後国の中心が阿蘇から熊本に移っていく経過のなかで、
阿蘇への入口にあたる熊本東部に建立されたという経緯があり、
市内ではもっとも歴史の長い神社らしい。
というわけで、「健軍」という地名は、
別にここに自衛隊の駐屯地があるからではないのだ。
さて、この阿蘇神社の門前町商店街は、元気がいいことで知られている。
店舗の経営もしっかり後継者にバトンタッチされていて、
地域の宝である阿蘇神社の被害が甚大であっても、
まったくめげている気配がない。
商店ごとに湧き水を利用した趣のある水基が整備されていて、
通りをぶらついてもあきることがない。
旧洋裁女学校の木造校舎を再利用したギャラリーを再訪したが、
イギリスから仕入れてきたというアンティーク雑貨や
ステンドグラスが沢山並べられていて、
午後の陽射しをやわらかく溶かしていた。
旧洋裁女学校跡
阿蘇神社からの帰路、57号線から265号線に入り、
根子岳を回り込んで高森を経由するルートを行く。
マフィンの美味しい馴染みのカフェに立ちよって午後のお茶を楽しむ。
店が開いているか心配しながら訪ねたのだが、
5月早々から店を開けて頑張ってきたとのこと。
でも、おなじみの番犬リリィは、ちょっと白髪が増えたようだった。

ぐるっと阿蘇を一周した格好で、帰りは久木野から39号線。
南側から阿蘇に入るもうひとつの迂回路、
グリーンロードから津森に抜けるルートをとる。
この季節だけの特別な輝きは、銀色になびくススキの海。
この波うつススキの美しさは、どうしたって写真には収まらない。
でも、いろんな人に知ってもらいたい、秋の阿蘇の特別な景色。
 
そういえば、秋の阿蘇をうつくしく描き出した
行定勲さんの、映画「うつくしいひと」。
健軍教会でもチャリティー上映会をさせていただいたが、
続編の製作が決まったという。
いまだに、多くの傷みとともにある熊本だが、
より添いと、励ましのあいだの揺らぎを、
うつくしく描き出す映画であってほしい。
さて、いろいろ報告すべき事もあるのだが、
思うようにはブログの更新がはかどらず、
休日の報告なのに幾日も遅くなってしまった。
ま、これも"できたしこ"でいくしかないようで・・・。

0 件のコメント:

コメントを投稿